柔道とコミュニケーション
乱取りをするときの不文律,より正確には,指導の心得があります.
* 上位者は,下位者がいい技をかけてきたら,投げられる.
これは,組む2人に明らかな技量の差があるのを,前提としています.
ここに,言葉を使わないコミュニケーションが含まれています.
しばらく,柔道の楽しさを書いてみましょう.
学んだ技で,相手を動かし,やあっと,投げるのは爽快です.
柔道には数十のよく知られた技があり,学んでいくにつれて,「得意技」を持つことになります.
相手を投げるには,また試合に勝つには,打ち込みで練習した技をかけるだけでは無理です.腕力,スピード,駆け引き,そしてそれらの組み合わせにより,技が決まる状態に持っていくことが,欠かせません.
投げたら終わり,ではありません.投げる側は「えい」でも「やあー」でもいいので,声を挙げ,アピールします.投げられた側は,背中が畳についたとき,上手いこと投げられたのを,体で感じるのです.
ここまでの話を,言葉を介したコミュニケーションに変換してみると…
相手に知ってほしいことを,相手にちゃんと届けるためには,書き言葉のような,抽象的な表現による技巧的な配列というのは,必ずしも要求されません*1.知ったばかりの語句をぽんと出すだとか,自分の内面にある思いをつらつらと語るのでは,失敗することも多々あります.
前振りや,背景説明を行い,本当に言いたいことを理解してもらう素地を作っておきます.本当に言いたいことは,短い字数で言えるものです.そこからさらに対話を重ね,聞き手が,ああこの人の言いたいことはこうなのだな,と感じることができたら,一つの情報伝達は成功です.
そして,語彙力が高い人や,経験が豊富な人=上位者と,そうでない人=下位者とで会話をするとき,上位者は自分の言いたいこと,知ってほしいことは適切な方法・言葉を使って伝えるだけでなく,下位者をリードし,言いたいことを引き出すことも努めます.「なるほど」「で?」などの相鎚は,技をかけやすくさせるように動き,自分の身をほぐしているのです.
ある話題には強いが,それ以外は関心を持たないという人は,柔道で言うと,自分の得意とする技だけが上手くて,それ以外はさっぱりという人です.得意技をいろいろなところで掛け,それが効いているうちは,自分の世界だけの人です.
いずれ,限界すなわち「壁」にぶつかります.そこで努力をしなくなると,楽しみもそこまでです.
得意技をさらに磨くだけでなく,他の技を学び,技以外の能力アップを試み,他の人の上手い技を,テレビだったり実際に受けたりして,知っていくことで,まだまだ技量は上がり,楽しさを再確認することができます.
「お願いします」の礼から始まり,組み,投げ,投げられれば,自分も相手も楽しめるのです.
日本語でも英語でも,話し言葉でも授業のやりとりでも,論文でもブログでも,自分も他人も楽しめるコミュニケーションを目指したいものです.